コナン・ドイル『バスカヴィル家の犬』新潮文庫

あらすじ(ネタバレ)

 

 モーティマー医師がホームズのもとに相談に来る。地元でチャールズ・バスカヴィル卿が不審な死をとげ、さらにバスカヴィル家にまつわる魔の犬の逸話もあり、相続人であるヘンリーをその地へ連れて行って良いものか相談。モーティマーとヘンリー、ワトスンはデヴォンシャーに行き、ホームズは残ることに。その間、ヘンリーらを尾行していたヒゲ男を取り逃す、ヘンリーの靴が片方なくなる、新聞から切り取った字でデヴォンシャーに来ないようにとの手紙がヘンリーのもとに届くなどの事件あり。

 

 バスカヴィル家の館に着く。その間、死刑囚のセルデンが脱獄したことを知る。執事のバリモアが夜中に不審な行動をとり、ヘンリーが問い詰めると、バリモアの妻イライザが弟であるセルデンのもとへ食料を届けていたと告白。ヘンリーらはセルデンを逮捕しようとするが失敗。その後、バリモア夫妻がセルデンを南米に送るから見逃してほしいと頼み承諾。その際、チャールズ卿がL.Lのイニシャルの婦人から事件の朝、手紙をもらっていたことを伝える。その人は地元に住むフランクランド老人の娘ローラ・ライオンズ。手紙の内容は事件当日、その現場で会う約束をするもの。彼女は離婚訴訟の費用で助けてもらうつもりだった。しかし、別の当てができたため、当日は行かなかった。

 

 ワトスンはセルデンを逮捕しようとした際、見かけた謎の人物を探していたが、その人物はホームズだった。ホームズは地元の博物学者ステープルトンが犯人だと言う。彼は妻のベルリを妹と偽る。ヘンリーはベルリに惹かれていた。その時、叫び声を聞く。ヘンリーを遺体で発見。しかし、それはヘンリーの服を着たセルデンであった。ヘンリーからバリモアが服をもらっていたのである。ステープルトンはヘンリーと間違えて犬を使って脅してセルデンを転落死させた。

 

 ホームズらはロンドンに帰るフリをして、ヘンリーをステープルトン宅に行かせ、近くで待ち構える。ヘンリーが帰る際、犬に追いかけられる。ホームズが銃で倒す。巨大な犬には燐ぬられ、火を吐く魔の犬のようにされていた。その後、ステープルトンを探すも見つからず、沼に沈んだと思われた。ステープルトンは実はバスカヴィル家の子孫であり、チャールズとヘンリーを亡き者にして遺産を相続しようとしていたのであった。そのために、妹と偽って妻やローラを利用しようとしていたのである。

 

感想

 銃を持っているのに逃げるセルデンを撃たないワトスン。セルデンの死を悲しむバリモア夫人。健気なカートライト少年。

バルザック『ゴリオ爺さん』岩波文庫

 パリにある下宿屋ヴォケェ館で暮らす人々。女主人のヴォケェ夫人。使用人のシルヴィーとクリストフ。入居当初は裕福そうだったが、だんだんと貧しくなっているゴリオ爺さん。地方から法律を学びにパリに来た青年ウージェーヌ・ド・ラスティニャック。謎めいたやり手風の男ヴォートラン。未亡人のクーチュール夫人とその遠縁にあたりお金持ちの父親から娘と認知してもらえないヴィクトリーヌ・タイユフェル嬢。老婆のミショノー嬢。老人のポワレ

 

 パリの社交界に入って立身出世を望むラスティニャックは叔母の伝手でボーセアン子爵夫人の舞踏会に招待され、そこでアナスタジー・ド・レストー伯爵夫人に一目ぼれする。レストー夫人の招待を受けたラスティニャックは夫人宅を訪問する。そこにはゴリオ爺さんとレストー夫人の恋人マクシム・ド・トラーユ伯爵がいた。さらに主人のレストー伯爵も帰宅。そこでラスティニャックはゴリオ氏のことを「ゴリオ爺さん」と呼んだことでレストー夫妻から嫌われてしまう。

 

 次にラスティニャクはボーセアン夫人宅に向かう。そこにはボーセアン夫人と恋仲のアジュダ=ピント侯爵がいた。しかし、アジュダ=ピント侯爵はロシュフィード家の令嬢と結婚する予定であり、ボーセアン夫人はそのことを知らない。アジュダ氏が出て行き、友人のランジェ公爵夫人が来る。そこでラスティニャックはレストー夫人はゴリオ爺さんの娘だと知る。

 ゴリオ爺さんは元は製麺業や小麦の販売で成功した商人であり、大金を娘に譲って上の娘アナスタジーをレストー家に嫁がせ、下の娘デルフィーヌを新興の銀行家ニュンシンゲーヌ男爵に嫁がせた。娘たちの夫はゴリオ爺さんを嫌い、だんだんと疎遠になっていく。

 ボーセアン夫人はラスティニャックにデルフィーヌを紹介する。妹のデルフィーヌは貴族達の集う社交界に憧れながらも入れずにいたので、ラスティニャックを介して社交界に入ることを望むだろうとボーセアン夫人は言う。

 

 ラスティニャックは社交界で成功するためのお金を得るため母と妹たちに手紙を出す。そしてお金を得る。ヴォートランに大金を得るためヴィクトリーヌと結婚するようそそのかされる。デルフィーヌとラスティニャックは恋仲になる。脱獄囚であったヴォートランはミショノー嬢に密告され警察に捕まる。娘たちにお金を上げるために一文無しになるゴリオ爺さん。レストー夫人がトラーユの借金返済のため父に頼むが無理で、ラスティニャクが工面する。その後、ゴリオ爺さんの病状が悪化し、ラスティニャックと友人のビアンションが看病するも、娘の二人とは会えないまま亡くなる。

大西巨人『神聖喜劇』(全五巻)光文社文庫

ネタバレあり

 

 細かい内容はかなり忘れてしまったので、今思い出せる印象に残った場面をいくつか書きます。

 

 主人公は東堂太郎。戦時中、補充兵の一人として対馬に招集され3ヶ月の教育を受ける。班長は大前田文七、班附は神山上等兵、村崎一等兵

 大前田は農民出身で中国での戦争経験がある。神山はインテリ風。村崎は気兼ねなく相談できる古参兵。

 

 「知りません禁止、忘れました強制」事件。集合時間を知らされてなくて遅れた東堂は集合時間を教えられてなくて知らないということを上官に言う。上官は「忘れましたと言え」と命ずるが、東堂は「知りません」と言う。「知りません禁止、忘れました強制」は軍隊での慣習で、明文規定はない。部下に対する上司の責任を無いものとするための慣習。

 東堂は虚無主義を抱え、軍隊において一匹の犬になる覚悟で来たが、一方で軍隊での理不尽に対して各種明文規定と記憶力を武器に上層部と闘っていく。

 

 訓練中に大前田が戦場の現実の残虐性について新兵たちに語る。それに対し村上少尉が今般の戦争の大義や理想に基づいて反論し注意する。その間、東堂は新聞記者時代の恋人との逢瀬を回想。

 

 ある日、湯浅二等兵の銃剣の鞘が損傷していることが発覚。さらに、その鞘は湯浅のではなく、湯浅の鞘は冬木二等兵が所持していることが明らかになる。冬木に犯行の疑いがかかる。その理由としては状況証拠以外に、その出自や前科にあった。冬木は特殊部落出身者であり、傷害致死で執行猶予を受けていた。

 冬木は恋人と夜道を帰る途中、男三人に囲まれ暴行を受ける。冬木は女性を守ろうとして立ち向かい(正当防衛?)、男一人を死に至らしめる。

 しかし、実際は吉原二等兵が自らの銃剣の鞘が損傷したことを隠蔽し、冬木に罪をなすりつけようとした犯行であった。冬木は東堂らの働きなどにより犯人として処罰はされなかった。

 

 ある日、末永二等兵は訓練の休憩中に民家のスルメ烏賊を盗んだことがバレ、木に縛り付けられる。末永は「ガンスイ(愚者、頓馬)」であった。そのことを利用して上官たちは末永をだまして死刑(模擬死刑)しようと見せかける。末永は嘘とわからず恐れ泣き詫びる。東堂はそのことに怒り、止めるよう訴える。同時に冬木も同様の発言。村崎一等兵も他の二等兵らを鼓舞(扇動)し、止めさせようとする。そこに村上少尉らが現れ、上官に対する部下の反抗とみなして村崎、東堂、冬木らは処罰される。

 

 教育訓練期間が満期を迎えるも、引き続き召集となる。大前田は任務を離れて民家の女性と逢引していたのを上官に見つかり逃亡するも捕まる。吉原は入隊前の詐欺事件の罪で捕まる。教育訓練兵であったそれぞれの兵は、それぞれ別々の場所の配属され出発する。

コナン・ドイル延原謙訳『シャーロック・ホームズの思い出』新潮文庫

白銀号事件

 競馬に出走予定の名馬の失踪と、その調教師の惨殺。実はその調教師は不倫相手がいて、お金が必要で、その馬をこっそり連れ出して、目立たないように傷つけて、お金を得ようとしたところ、馬にけられて亡くなる。馬はライバルの馬がいる隣の厩舎に迷い込み、閉じ込められる。

 

黄いろい顔

 ある仲のよい夫婦がいたが、その妻がある日から向かいの家にコソコソ行くようになる。妻はアメリカにいたころ夫と子供が一人いたが、病気で2人とも亡くしてイギリスに帰ってきたと今の夫は思っていた。しかし、子供は生きており、体が弱かったのでアメリカの召使の乳母のもとにおいてきた。前の夫は黒人であり、子供も黒人であった。子供にどうしても会いたくなって向かいの家に呼び寄せたが、黒人の娘がいると分かったら、今の夫に嫌われるかもしれないと思い隠れて会っていた。

 真相がすべて明らかになると、夫はそのかわいい娘を抱いて、一緒に暮らそうといった。

 

株式仲買店員

 会社が倒産し、別の勤め先がやっと見つかったパイクロフトという男に、ある男がもっといい条件で採用したいと持ちかける。その目的は、この男の仲間がパイクロフトに成りすまして、会社に入り込みお金を盗むためであった。しかし捕まる。

 

グロリア・スコット号

 ホームズが探偵を自分の仕事にすることを決めた事件。学生のころ友人と、その父親の家に遊びに行く。その友人の父親の前でホームズが観察と推理を披露すると、探偵で身を立てるようにと勧める。

 父は突然訪ねてきたハドスンを恐れる。父は昔、会社の資金を流用して捕まり、オーストラリア行きの船グロリア・スコット号に囚人として乗る。そこで囚人の反乱に加わり、半ば成功するも方針の違いから父たちはボートに乗り離れる。その後、グロリア・スコット号は囚人と乗員との戦いで爆発する。父らは引き返し、乗員のハドスンを救出する。

 身元を偽り、オーストラリアで成功してイギリスに帰るも、その過去を知るハドスンを恐れ、かつての仲間からハドスンが暴露するという手紙を受け取り、もともと心臓の弱い父は亡くなる。

 

マスグレーヴ家の儀式

 マスグレーヴ家の執事はある夜、代々伝わる儀式文をこっそり研究していたところを主人に見つかり暇を出される。その後執事は失踪。その儀式文は祖先が遺した宝の在り処を示すもので、執事はそれを奪おうとするも、女中に裏切られ、閉じ込められて死亡。女中は証拠隠滅のため池に捨てる。ホームズはその儀式文を解読し事件を解明する。

 

背の曲がった男

 妻は背の曲がった男に会い、その後、夫を非難し、そこに入ってきた背の曲がった男を見て夫は卒中で亡くなる。

 その男はかつて妻と結婚を約束していたが、当時、軍の上司であった夫は、敵に内通し、その男を敵に捕らえさせた。その後、長い苦難を経験し、醜い姿になって帰ってきた。

 

入院患者

 ある医師の開業に出資した男は、入院患者という体裁でその医院に住んでいた。しかし、ある日、自殺を装い殺される。彼は銀行強盗の犯行グループの一人であったが、捕まったあと仲間を裏切った。その復讐のため襲われる。

 

ギリシャ語通訳

 ホームズの兄マイクロフト登場。ホームズほど活動的ではないが、観察と推理の能力は勝るとも劣らず。ギリシャ語通訳が巻き込まれた事件を兄から紹介される。お金持ちの娘のギリシャ人がイギリスで男にだまされ駆け落ちしそうになる。止めようと来た兄も捕まり、財産を譲り渡す文書に署名するよう強迫するため件の通訳を呼ぶ。最後まで拒否し、兄は殺されるが、通訳は救出される。犯人は逃亡するが、後に新聞で殺害されたとの報が入る。

 

海軍条約文書事件

 ある重要な外交文書の写しをパーシイが作成していたところ、少し離れた隙に紛失する。もともと一緒に帰る予定だった婚約相手の兄が、たまたまパーシイがいないときに部屋に入り、文書を見つけ、その価値を知り、株に手を出し失敗してお金が必要だったため盗んだのであった。家に帰り部屋の床下に隠したが、パーシイがショックのため病人となってその家に帰ってきて、その部屋を明け渡さなければならなくなった。その後、婚約者である妹などがずっと付き添っていたため文書を取り返せず、その自体を見破ったホームズに捕まる。

 

最後の事件

 モリアティ教授登場。ホームズはさまざまな事件に取り組む中で背後に大きな組織があることに気づく。そのトップがモリアティ教授であった。ホームズとモリアティ教授との幾度にもわたる戦いの末、彼ら一味を捕まえる一歩手前までこぎつける。その間ホームズは身を隠そうと大陸に渡るが、モリアティ教授は逃げのび、ホームズと再び闘い、二人とも滝つぼの中に落ちる。死体は収容されないまま、最後をむかえる。

アガサ・クリスティー清水俊二訳『そして誰もいなくなった』ハヤカワ文庫

ネタバレあらすじ

 

 10名の者がU・Nオーエン氏にインディアン島に招待される。元判事ウォーグレイブ、家庭教師クレイソーン、元大尉ロンバート、信仰あつい老婦人ブレント、元将軍マカーサー、医師アームストロング、遊び人青年マーストン、元警部ブロア、召使ロジャースとその夫人。

 

 10人が島の邸の中でくつろいでいたとき、急に誰かの声がし、各人の殺人の罪を述べ立てた。内容は被害者の名前のみの簡単なものであったが、それぞれ心当たりがあった。アームストロングは酔ったまま手術して患者を死亡させる。ブレントは召使が妊娠したことで解雇し、自殺に追いやる。ブロアは偽証で容疑者を獄中に追いやり、獄中で死亡。クレイソーンは家庭教師先の子供が溺死する危険あるのに、その子が死ねば恋人の男性が遺産を得るため放置し、死亡させる。ロンバートはアフリカの原地人の食料を奪い餓死させる。マカーサーは妻の愛人であった部下を生きては帰れない戦地に追いやり死亡させる。マーストンは車のスピードの出しすぎで子供を事故死させる。ロジャース夫妻は遺産を目当てに、主人が病気で苦しんでいるのに放置して死亡させる。ウォーグレイブは無罪が有力視されていた被告人に死刑判決を下す。

 

 声の正体は隣の部屋のレコードであった。その後、10名の者はインディアンの子守唄になぞらえて次々に殺害される。まず、マーストンが青酸カリの入ったお酒を飲んで、次にロジャース夫人が睡眠薬の多量摂取で、マカーサーが殴打で殺害される。捜索が行われるがオーエン氏は見つからず、オーエン氏は自分たちの中にいるということになる。そして、ロジャースが斧で、ブレントが青酸カリを注射で、ウォーグレイブがピストルで射殺される。アームストロングが失踪し、3人は探しに出かけるがブロアが邸に戻り落下物で殺害される。ロンバートとクレイソーンはアームストロングの溺死体を発見。二人は互いを疑い、クレイソーンがロンバートの銃を奪い射殺。クレイソーンが部屋に戻ると首をくくる輪が準備されていた。クレイソーンは射殺したこと、もしくは過去の罪の影響からか自殺する。

 

 オーエン氏の正体はウォーグレイブであった。漁師が海で拾った壜の中の手紙から判明。ウォーグレイブは法律では「正当」に裁くことのできない「殺人」を裁きたいという動機から計画。該当する者を探し出して島に招待し、隙を見て殺害していく。途中で、犯人を捕まえるためとだましてアームストロングを仲間にし、自らの殺害を偽装する。そして、その後の殺害も実行する。最後に手紙を書いて自殺。

『冒険』つづき

「唇の捩れた男」

 ワトスンは友人を探しにアヘン窟へでかけると、そこで老人に変装したホームズに出会う。ホームズは事件の捜査中であった。事件の内容は以下の通り。

 ネヴィル・セントクレアは仕事に出かけた。その夫人も、そのあと外出。途中で、アヘン窟のある建物の3階に主人の姿を見かける。驚いた夫人は主人のもとに駆けつけるが、そこには有名な乞食の「いざり」ヒュー・ブーンがいるばかりで、セントクレア氏の姿は無く、衣類だけが残されていた。

 未解決のままホームズとワトスンはセントクレア夫人宅へ行く。そこで、夫人は主人からの手紙が来たことを伝える。ホームズは一晩考え、答えにたどり着き、ワトスンと共にヒュー・ブーンが拘束されている留置場に向かう。寝ているブーンの顔を洗うと、そこにはセントクレア氏の顔があった。セントクレア氏は新聞記者時代、乞食の取材のため自身も変装して乞食になったところ、かなりの収入を得た。そこで、誰にも気づかれないようにこっそり変装して、乞食専門で生計を立てるようになっていった。

 

「青いガーネット」

 ある男が鵞鳥を落とし、それをピータースンが拾う。その鵞鳥の中から青いガーネットが出てくる。ホームズに届ける。その宝石はモーカー伯爵夫人のもので、盗難され、ジョン・ホーナーが容疑者として捕まっていた。

 ホームズは鵞鳥の落とし主を新聞広告で呼び寄せる。代わりの鵞鳥で満足したので盗難とは関係ないと見て、鵞鳥の入手先を聞く。入手先をたどっていくうちに、同じように鵞鳥を探している者に出会う。その者は盗難現場のホテルのボーイ長ジェームズ・ライダーであった。彼が犯人で、宝石を盗んで前科者のホーナーに罪を着せ、姉が商売で育てている鵞鳥に飲ませて運ぼうとしたが、別の鵞鳥と取り違えてしまったのであった。

 

「まだらの紐」

 ヘレン・ストーナー婦人がホームズ宅へ相談に訪れる。双子の姉ジュリアがいて、母は医師(零落した貴族)であるロイロット博士と再婚したがまもなく死亡。母はお金持ちで、娘たちが結婚すればその一部が娘たちのものになる。姉が結婚式近くになって死亡。夜中に叫び声がし、口笛と金物の落ちる音がして、「まだらの紐」という言葉を残し亡くなる。検死の結果、外傷も無く毒も検出されず。ヘレンも婚約、結婚式近くになって自分の寝室の修繕が始まり、姉の寝室で寝るようになる。その夜、口笛を聞いて恐ろしくなり、ホームズ宅を訪れる。

 ホームズとワトスンはロイロット宅に行き(ロイロットは外出中)、姉の寝室を調べる。窓やドアは閉じれば侵入不可能。ただし、部屋には隣の父親の部屋につながる穴があり紐が垂れ下がっている。ロイロット博士の部屋も調査し、ホームズは犯人を捕まえるためワトスンと共に姉の部屋で夜を過ごす。深夜、かすかな音がすると、ホームズはそれをステッキでたたく。まもなく隣の部屋からロイロット博士の悲鳴が聞こえ死亡。ロイロットは蛇で娘を殺害しようとしたところ、たたかれた蛇が戻ってきて逆にかまれる。医学に知識を利用して検出されない毒蛇を使用、噛んだ傷跡も小さいので見逃される。口笛は蛇を呼び戻すため、金物の音は蛇を金庫の中にしまう音であった。

 

「花嫁失踪事件」

 セントサイモン卿は結婚式の披露宴の中、花嫁のハティ・ドーランが失踪し、ホームズに相談。結婚式の途中、花嫁は花束を落とし、男が拾って渡す。その時から、花嫁の様子が少しおかしくなる。レストレード警部はセントサイモンの元交際相手フローラ・ミラーを疑い捜査し、池から花嫁の衣装を探し出し、そのポケットから花嫁を誘い出す手紙を発見。ホームズはその裏のホテルの代金のメモを見て花嫁の居所を見つける。ハティはアメリカにいたころフランクという青年と交際していたが、殺害されたとの記事が出て、あきらめ結婚しようとしていたところ式場でフランクに再会し、フランクに連れられ今回の失踪劇にいたる。

 

「ぶな屋敷」

 ヴァイオレット・ハンター婦人は奇妙な家の家庭教師を受けていいものか迷いホームズに相談。髪を切ることや、こちらの用意した服を着ることを要求する家だった。

 家庭教師に行き、そこで窓の外の謎の男や、恐ろしい犬、離れの鍵がかかった棟などがあった。ある日、鍵が開いていて中に入ると、閉じたドアの部屋の中に人の気配。怖くて逃げたところ、普段は気さくな主人ルーカッスルに捕まり脅される。ホームズに再び相談。

 ホームズとワトスンはその家に行き、部屋のドアを開けるが、そこには誰もいなかった。そこで主人に見つかり、主人はホームズらを襲わせようと犬を放したところ、逆に襲われ瀕死となる。

 部屋に閉じ込められていたのは娘アリスで、窓の外の男は恋人のファウラー。閉じ込めた動機は娘の財産をとられないためであった。ハンターさんは娘の代役を演じさせられていた。部屋にいなかったのは、ファウラーがアリスの味方である使用人のおかみさんとつながり、主人が留守のとき梯子を用意させて、部屋の天窓から救出したのである。

コナン・ドイル延原謙訳『シャーロック・ホームズの冒険』新潮文庫

あらすじ

 

ボヘミアの醜聞

 ボヘミア国王は若いころアイリーン・アドラーという女性と関係を持ち、二人で撮った写真を彼女に握られる。国王がこのたび結婚するに際し、その写真を結婚相手に送ると脅される。そこで、ホームズに相談。

 ホームズは変装して調査に出かけるが、たまたまアイリーン・アドラーとゴッドフリー・ノートンの結婚の証人として立ち会わされることになる。後日、再びホームズは変装してワトスンと共にアドラー宅まで行き、ホームズはけが人のフリをして入れてもらい、ワトスンは窓の外に隠れる。ワトスンは「火事だ!」と叫び、煙花火を投げ入れる。その時のアドラーの行動から、ホームズは写真の在り処を察知。御者に見られていたためひとまず退散。自宅に戻るとき何者かから「ホームズさん、こんばんは」と声をかけられる。

 翌朝、ホームズとワトスンは国王と共にアドラー宅へ向かう。しかし、すでにアドラーは夫のノートンと大陸に出国した後だった。写真の在り処にはアドラーからホームズへ手紙が残されていた。途中で気づき、男装して後を追いホームズに挨拶をしたこと、写真は脅迫には用いないがお守りとして持っておくことが書かれてあった。

 

「赤髪組合」

 質屋を経営している赤髪のウィルスンがホームズのところに相談に来る。半分の給料でかまわないということで雇った店員スポールディングがある日、新聞広告を見せに来た。そこには、髪が赤いことを条件とした赤髪組合の求人が書かれてあった。面接に行くと採用され、週4ポンドで昼間の4時間、大英百科辞典を書き写す仕事をした。Aの部が終わりかけたころ、仕事場に行くと、「赤髪組合は解散した」との貼り紙があり、途方にくれてやって来た次第とのこと。

 ホームズは質屋の前に来てステッキで地面をたたく。道案内を口実に店員の男を観察。店の裏には銀行がある。店員は有名な犯罪者ジョン・クレーであること、質屋から穴を掘って銀行の金貨を盗もうとしていること、その作業を悟られないためウィルスンに赤髪組合の仕事をさせていたことをホームズは見抜く。銀行の金庫に先回りして捕まえる。

 

「花婿失踪事件」

 メアリー・サザーランド嬢がホームズ宅へ相談に訪れる。母の再婚相手の継父ウィンディバンクは娘のサザーランドが結婚するのに反対する。サザーランドには伯父からもらった遺産があった。サザーランドはホズマー・エンゼルと知り合い婚約する。父がフランスへ行っている間に結婚式をするため教会に馬車で向かう。後から来るはずのホズマーが失踪。

 ホームズはウィンディバンクを手紙で呼ぶ。ウィンディバンクからの手紙とホズマーの手紙のタイプライターの特徴が似ていること等から、娘の遺産を保持し続けるために継父がホズマーに変装して娘をだましていたことが判明。

 

「ボスコム谷の惨劇」

 ボスコム谷でマッカーシーが殺害される。父と口論していた息子のジェームズが目撃者の証言から容疑者となる。ホームズは現場の痕跡、死ぬ間際に息子に言った言葉等(オーストラリアの方言や地名)から犯人をマッカーシーに農場を貸しているターナーと割り出す。

 ターナーはオーストラリアにいるころギャングをしていて大金を手に入れる。そのとき襲った相手の荷馬車の御者がマッカーシーであり、そのまま見逃す。イギリスに帰り生活していたところマッカーシーに見つかり脅される。マッカーシーは息子をターナーの娘アリスと結婚させたがる。それを嫌がりターナーマッカーシーを殺害。

 息子はホームズの異議で無罪。ターナーは病死。ジェームスは他の女にだまされて結婚していたが今回の件で破棄になり、アリスと結ばれる。

 

「オレンジの種5つ」

 ジョン・オープンショウがホームズ宅へ相談に訪れる。彼の伯父はアメリカで財産を作り帰国。ある日、手紙が届く。オレンジの種5つとKKKの文字。恐れた伯父は、屋根裏から金庫を持ってきて書類を燃やす。後日、伯父は溺死。自殺と判定される。遺産を相続した父にも同じ手紙が届き、「書類を日時計の上に置け」と指示される。その後、父は死亡し事故死とされる。そして昨日、ジョンに同様の手紙が届く。

 ホームズは手紙の消印から犯人像を帆船の船員と絞り込む。しかし、翌朝、オープンショウ事故死の新聞記事。ホームズは消印と船舶名簿、新聞記事から犯人を割り出し捕らえようとするも、その船は嵐にあい沈没。