大西巨人『神聖喜劇』(全五巻)光文社文庫

ネタバレあり

 

 細かい内容はかなり忘れてしまったので、今思い出せる印象に残った場面をいくつか書きます。

 

 主人公は東堂太郎。戦時中、補充兵の一人として対馬に招集され3ヶ月の教育を受ける。班長は大前田文七、班附は神山上等兵、村崎一等兵

 大前田は農民出身で中国での戦争経験がある。神山はインテリ風。村崎は気兼ねなく相談できる古参兵。

 

 「知りません禁止、忘れました強制」事件。集合時間を知らされてなくて遅れた東堂は集合時間を教えられてなくて知らないということを上官に言う。上官は「忘れましたと言え」と命ずるが、東堂は「知りません」と言う。「知りません禁止、忘れました強制」は軍隊での慣習で、明文規定はない。部下に対する上司の責任を無いものとするための慣習。

 東堂は虚無主義を抱え、軍隊において一匹の犬になる覚悟で来たが、一方で軍隊での理不尽に対して各種明文規定と記憶力を武器に上層部と闘っていく。

 

 訓練中に大前田が戦場の現実の残虐性について新兵たちに語る。それに対し村上少尉が今般の戦争の大義や理想に基づいて反論し注意する。その間、東堂は新聞記者時代の恋人との逢瀬を回想。

 

 ある日、湯浅二等兵の銃剣の鞘が損傷していることが発覚。さらに、その鞘は湯浅のではなく、湯浅の鞘は冬木二等兵が所持していることが明らかになる。冬木に犯行の疑いがかかる。その理由としては状況証拠以外に、その出自や前科にあった。冬木は特殊部落出身者であり、傷害致死で執行猶予を受けていた。

 冬木は恋人と夜道を帰る途中、男三人に囲まれ暴行を受ける。冬木は女性を守ろうとして立ち向かい(正当防衛?)、男一人を死に至らしめる。

 しかし、実際は吉原二等兵が自らの銃剣の鞘が損傷したことを隠蔽し、冬木に罪をなすりつけようとした犯行であった。冬木は東堂らの働きなどにより犯人として処罰はされなかった。

 

 ある日、末永二等兵は訓練の休憩中に民家のスルメ烏賊を盗んだことがバレ、木に縛り付けられる。末永は「ガンスイ(愚者、頓馬)」であった。そのことを利用して上官たちは末永をだまして死刑(模擬死刑)しようと見せかける。末永は嘘とわからず恐れ泣き詫びる。東堂はそのことに怒り、止めるよう訴える。同時に冬木も同様の発言。村崎一等兵も他の二等兵らを鼓舞(扇動)し、止めさせようとする。そこに村上少尉らが現れ、上官に対する部下の反抗とみなして村崎、東堂、冬木らは処罰される。

 

 教育訓練期間が満期を迎えるも、引き続き召集となる。大前田は任務を離れて民家の女性と逢引していたのを上官に見つかり逃亡するも捕まる。吉原は入隊前の詐欺事件の罪で捕まる。教育訓練兵であったそれぞれの兵は、それぞれ別々の場所の配属され出発する。